ここ最近のブログ記事には一貫性が殆どありませんが、今回の記事もあまり以前の記事とは関係のない、私が興味を持ったニュースに関するブログ記事になります。

数日前に小林化工という会社から特別調査委員会の調査報告書が公表されました。
調査委員会による調査報告について
https://www.kobayashikako.co.jp/contact/survey_report.php

概要版で135ページという大部ですが、経口抗真菌剤に睡眠薬成分を混入し、死者を含む多数の健康被害を出した同社の製造・開発の現場において行われていた不正や不適切な取り扱い、そして経営陣がそれらを認識していたことが分かりやすく述べられています。健康被害などの概要は、以下のニュースが比較的まとまっています。
睡眠導入剤混入の水虫薬被害 安全性は二の次の販売計画
https://www.sankei.com/premium/news/210314/prm2103140002-n1.html

私は薬学や化学の専門知識が無く、薬事行政にも詳しくないため、詳細は以下のような他の解説記事を読んでもらいたいと思います(流石に承認されていない成分を生産時に使用していたことがまずいことはわかりますが…)が、私が個人的に気になっていた部分についても報告書に記載があったので、そこだけを簡単に説明します。
小林化工・小林社長が会見 申請時の虚偽記載は「特許切れ後すぐ承認が目的」 営利に走った結果
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=70975

私が気になっていたのは、小林化工という会社における在庫管理の状況でした。本来ある薬の生産時に使用することのない薬剤を使用した場合、通常であれば本来の在庫と実際の在庫に齟齬が生じるため、今回のように医療現場から異常が報告される前に気づくことができるはずです。

この点について調査報告書によれば、同社の在庫管理システムには実際に製造に使用した(正確には使用前に秤に載せて重さをはかった)薬剤の量ではなく、承認書に記載されている薬剤の量が入力されていました(報告書44ページ)。半期ごとに行われる在庫棚卸の際には当然システム上の在庫と実際の在庫に齟齬が生じますが、「目欠」(在庫の減耗)や「在庫調整」などの名目で適当に処理して実際の在庫に合わせていました(報告書45ページ)。

…せっかく製造の都度システムに使用量を入力するのに、半期ごとにしか正しい在庫量が入力されない「在庫『管理』システム」の存在意義を考えさせられてしまいます。このようなシステムのデータをもとに決算を作成しても、正しい数値が出てくるとは考えにくいです。
このような無法がまかり通っていたのは、小林化工が会計監査人設置会社ではなかったためです。同社は企業概要(https://www.kobayashikako.co.jp/company/outline.php)によれば非上場会社かつ資本金9,800万円で大会社にも該当せず、会計の専門家である公認会計士や監査法人が就く会計監査人は設置されていませんでした。
しかし2020年1月に上場企業であるオリックスの連結子会社になったため、同社の会計監査人(あずさ監査法人のようです)による会計監査(財務諸表監査)の対象となりました。そして同年3月のプレ監査を受けた際に、会計監査人からシステム上の在庫と実際の在庫の齟齬をきちんと調査するようにという当然の指摘を受けました(報告書45ページ)。

それを受けて小林化工では、在庫管理システムに実際の薬剤使用量を入力せよという指示を2020年夏頃に出したようです。しかしこれは徹底されていなかったようで、今回の場合には作業者は従来通り承認書に記載されている薬剤量をシステムに入力しており、混入した睡眠薬成分はもちろん承認書に記載がないので入力は行われませんでした。同社が導入していた在庫管理システムは、薬剤の容器に貼り付けられたバーコードをハンディ端末で読み取り、使用量を入力するもので、バーコードで読み取ると、薬剤の名称やロット番号が表示されるようになっていました(報告書43ページ)。そのため、もしきちんとバーコードを読み取っていれば、睡眠薬の成分を投入しようとしていることに気付くことができたかもしれません。

…もうちょっと早くオリックスの子会社になって会計監査を受け、指示が徹底されていたら今回の事案は発生しなかった可能性があったのではないかと考えてしまいます。もっとも薬剤の混入については、他の作業記録では睡眠薬成分を記録していたにもかかわらず確認されませんでしたので、端末に薬剤名が表示されても気付かない・確認されない可能性もありますし、万が一気付いたとしてもその場限りに対応になって、同社のその他の問題点は何も改善されなかったかもしれませんが。
とはいえ企業会計は企業の活動を可能な限り正確に記録しようとするものであり、会計監査を通じて企業会計を適切にすることは、すなわち業務の適正化や人の命を救うことにもなりうるということを示している事案だと思います。

私は仕事柄監査や検査に対応する機会が多く、どうしても面倒くさいと思ってしまうタイプの人間ですが、今回の小林化工の事案のように監査が不正の発覚や業務改善の端緒になる(もしくはなりそう)な事例も見かけることがありますので、必要性を意識してきちんと対応しようという意識を持つようにしています。

とりとめのない記事になってしまいましたが、最後に私が読んで面白かった粉飾決算や会計不正の本のリンクを貼り付けて終わりたいと思います。